テクニカルコラム低温再生型デシカント空調機

従来は再生温度として100℃程度の高温が必須であったデシカントロータに、新素材の高分子収着剤をデシカント材料に使用することで、40℃から効率良く再生する事が可能となりました。その結果、捨てられていた低温の排熱(40℃~80℃)を有効に活用し、除湿(潜熱処理)を行うことが可能になりました。

新素材ロータにより低温排熱でも再生が可能になったデシカント空調機

除湿の重要性

高温多湿の日本では、除湿(潜熱処理)をいかに効率良く行うかが、省エネの重要なキーとなっています。
2005年2月に京都議定書が発効され、温暖化ガスの排出量を1990年基準から6%削減する必要に迫られています。 そこで、環境省が中心となり服装の工夫によって、冷房時の室内温度28℃設定とするキャンペーン『COOL BIZ』が提唱されました。しかし、湿度管理を行わず28℃に設定した場合、多くは不快感を与える結果となってしまいます。「冷房設定温度28℃」を普及するには、湿度管理も重要な要素になってきます。
また、湿度管理は『食品の保存性』や『加工時の安全性』および『産業機器の生産性の向上』にも繋がります。

デシカントロータの種類

デシカントロータの主な種類としては、低温再生に適している高分子収着剤と高温再生に適しているシリカゲル剤、ゼオライト剤等が存在します。現在も低温化の研究が活発に行われています。

収着と吸着

高温再生に適しているシリカゲル剤やゼオライト剤等は、吸着現象(adsorption)により空気中の水分を取り除きます。
ロータ表面の細孔(凹部)に水分子が入り込む事により除湿が行われます。吸着された水分子は、熱を加えることで活発になり、細孔から飛び出し脱着が行われます。

低温再生に適している高分子収着剤は、吸着と吸収を兼ね備えた収着現象(sorption)により除湿を行います。 収着とは親水性高分子鎖へ水分子が結合するとともに、その架橋点を支点として高分子架橋体が膨潤変形しながら、水分子が毛管凝縮のようにトラップすることです。高分子架橋体に収着した水分子は、40℃~80℃の低温で高分子架橋体が収縮しながら水分子を脱着します。

吸着のメカニズム

吸着と脱着の仕組みを表現したイメージです。
細孔表面に水蒸気が吸着し、細孔に水分子が入り込んで除湿します

デシカント空調機における空気線図上での動き

デシカント空調機では、除湿側と再生側の2つの流れが存在し、それぞれが対向になっています。

除湿側では、除湿したい空気①がデシカントロータを通過すると、除湿効果により絶対湿度が下がると同時に吸着熱により温度が上昇します。また、回転ロータによるエネルギー移行などにより、空気線図上では、等エンタルピより少し上に移動した②の状態となります。②は高温低湿状態であるため、顕熱交換器により効果的に温度を下げ③の状態となり、最終的に必要に応じて吐出温度④まで冷却(温調)します。

再生側は再生空気⑤をデシカントロータ出口空気②と顕熱交換し、⑥の状態となります。その後、必要除湿量に応じて⑦まで上昇させ、最終的にはデシカントロータを通過し、⑧の状態となります。
除湿量はデシカントロータ入口の①と⑦の相対湿度差が大きいほど大きくなるため、再生温度⑦を高くするか、処理入口の空気①を冷却するなどして相対湿度を高めることにより、大きな除湿量を確保する事ができます。

デシカント空調機のメリット

一般空調

  1. 廃熱や未使用エネルギーの活用により湿度制御が可能であるため、再熱処理を行わないで適切な湿度管理ができます。また、冷やし過ぎないなどの室内快適性が向上します。
  2. 潜熱と顕熱を別々に処理が出来るため、顕熱を比較的温度が高い冷水(12℃)で処理ができ、冷凍機のCOPを上げ「空調システム効率」を向上させることができます。

半導体工場

  1. きめ細やかな湿度管理が可能です。
  2. 従来、再生熱に蒸気を使用していたが、低温再生が可能になったため冷温水で低湿度への対応が可能になりました。
  3. 潜熱と顕熱を別々に処理が出来るため、顕熱を比較的温度が高い冷水(12℃)で処理ができ、冷凍機のCOPが向上します。
  4. 潜熱処理に排熱や未使用エネルギーが利用でき、COPの向上はCO2排出量が削減できます。

スーパーマーケット

  1. デシカント空調機からの暖かい低湿な空気をショーケースの足元に吹き出させる事により、ショーケースからの冷気漏れが顧客の足元にあたり、不快感を与えるコールドアイルを解消します。
  2. デシカント空調機からの暖かい低湿な空気により、ショーケース内の結露、商品の霜付が少なくなり商品価値の低下を防げます。
  3. デシカント空調機からの暖かい低湿な空気により、ショーケースのデフロスト回数が少なくなり、ショーケースの省エネ、商品の鮮度が向上します。
  4. 湿度管理により、カビやウイルスの繁殖が抑えられ、室内環境が向上します。また、デシカントロータの除菌効果による浮遊菌も減少します。

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