テクニカルコラムID型蒸気加湿器

空調機で使用されている加湿方式は「水噴霧式」「気化式」「蒸気式」の3種類に大別されます。その中の蒸気式についての説明と、低温でも加湿吸収距離が短い蒸気加湿器の紹介です。

ドレン飛散が無く蒸気の吸収距離が短い蒸気加湿器

加湿の重要性

空気が乾燥すると、ドアノブを触って静電気を感じたり、かぜをひきやすくなったりします。冬期の湿度低下は人の快適性を阻害するだけでなく、健康にも影響を与えます。産業分野においても湿度低下は様々な問題を引き起こします。農作物を乾燥した環境で貯蔵すると傷みやすく、印刷工場では紙の収縮やほこりの付着、繊維工場では糸切れや伸縮ムラを起こし生産性を悪化させます。多くの分野で湿度制御を行う加湿器は不可欠です。

加湿方式は「水噴霧式」「気化式」「蒸気式」の3種類に大別され、用途によって使い分けられています。その中で蒸気式は、
①加湿による温度降下がない
②不純物が混入しにくい(=クリーンな加湿)
③制御性と応答性に優れる
④高湿度設定が可能
という長所があり、幅広く採用されています。その一方で、ドレン飛散や加湿吸収距離不足による再凝縮といった問題があります。

蒸気の特性

蒸気とは水を加熱して発生する無色透明の気体(ガス)です。水を沸点まで上げるエネルギーを顕熱と呼び、沸騰している水を蒸気に変化させるエネルギーを潜熱と呼びます。これらの熱量は圧力や温度条件により異なった値を示します。潜熱変化中は水分を含んだ蒸気であり「湿り蒸気」と呼ばれます。完全に水分が蒸発した蒸気を「飽和蒸気」と呼び、さらに熱を加え続けたものが「過熱蒸気」です。
ボイラーを出た直後の蒸気は「飽和蒸気」であり、飽和蒸気は僅かな放熱で凝縮水が発生します。

蒸気加湿器には一般的に凝縮水の水飛び対策が施されています。
<例>
①加湿管を2重にして凝縮水と蒸気を分離する。
②高圧蒸気を減圧し、フラッシュ効果で凝縮水を再蒸発させる。
③遮蔽版(エリミネータ)に湿り蒸気を衝突させ、凝縮水と蒸気を分離する。
④加湿管を別の蒸気で加熱し、凝縮水を再蒸発させると同時に過熱蒸気にする。

また、上記対策を組み合わせて用いることもあります。

加湿吸収距離と蒸気の再凝縮

噴霧した蒸気が空気に取り込まれるためには状況に応じたある一定の空間が必要です。噴霧ノズルから空気に取り込まれるまでの距離を加湿吸収距離と言い、この間にファンやフィルタなどの障害物があるとその表面を濡らしてしまいます。
加湿吸収距離は周辺空気の状態によって変わり、その距離は温度が低いほど長く高くなれば短くなります。
低温の場合2m以上の加湿吸収距離を見込む場合もあります。

(写真の説明)

Ⅰ区間 噴霧直後の蒸気は飽和蒸気なので無色透明です。
Ⅱ区間 蒸気が空気に冷やされ凝縮して細かい水滴になります。(俗に言う湯気)
白く見えるのは水滴が光で乱反射しているからです。
Ⅲ区間 水滴が気化して、無色透明となります。
Ⅰ区間からⅢ区間までの距離が加湿吸収距離です。

蒸気を空気中に噴霧すると、蒸気は直接空気に取り込まれると考えがちですが、周辺空気の冷却により凝縮して一旦水滴に戻り、その水滴がもう一度気化して吸収されるのです。
無数の水滴を伴ったⅡ区間の過飽和空気は、噴霧により誘引された周辺空気に水滴が次々に気化し、Ⅲ区間で過飽和状態が解消されます。蒸発に必要な気化熱は蒸気が持っていたエネルギーを使うので、温度降下はおこしません。

ID型蒸気加湿器

ID型蒸気加湿器は、下図に示す部材から構成されています。

特徴

空気への蒸気の取り込みを促進しながら中央部のスリットで蒸気を誘引することで効果的に噴霧蒸気を拡散します。誘引と拡散の効果により蒸気が空気に取り込まれる距離が
短くなり低温でも、十分な加湿が可能になりました。

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